「血と肉と骨」
唐揚げの話ではない
劇作家の巨匠たちを身の程知らずにイメージ分類する評語だ。
血ー寺山修司
肉ー唐十郎
骨ー別役実
昨日が第二回目の「別役実を読む会」(私は初参加)。
御歳八十二になる「とても死にそうにない奇才」の
中後期作品を読むという内容で二作用意されていた。
「ジョバンニの父への旅」と
「ああ、それなのに、それなのに」。
机上の冊子はいずれも分厚く
とても制限時間内で読みきれそうにない
というので
とりあえず「ジョバンニ」から、だった。
別役作品は初期のを見たり読んだりしていたが
随分昔のこと。
その「不条理なコメディー」は
アングラの、血と汗迸る熱狂とは一線を画す
どこかはぐらかしの印象で
新鮮な笑いを提供してくれるものとの好印象が残っていた。
が、だ。
久々に改めて読み始めた傑作
(芸術選奨文部大臣賞と読売文学賞受賞!)は
正直。。。。。。。
(その戯曲にも三点ポイントが多発!)
登場人物がわざとハンカチを落とし
続いて現れる人物が拾って
そこに入っているネームで呼びかけーー
みたいなことが繰り返される。
もっとも
その輪廻のコントは
日本中の子供と夢見る大人たちが大好きな『銀河鉄道』を踏まえた
巨匠独特の「伏線」ではあるわけだが、
まさに、かつて「そんなもの言葉遊び!」と一蹴されたのが
今更に「全くそうだ!」と首肯してしまう
実に退屈極まる茶番。
(おいおい。作者の億万分の一も
名実無き無能が何を偉そうなこと言ってやがる!)
「頭で書かれたものゆえ学生に好まれる」
との意見が出るのも致し方ない。
「ジョバンニの父」と
「牛乳屋の婆さん」役を読んだ私も
アホの証拠か
その序幕から頭がこんぐらがっていた。
80年代に書かれたというこの戯曲
「父親不在」
「校内暴力」等々
ひと通り物質的発展を遂げた後の
「精神の空洞」とでも呼べる時代を反映するかの如く
中盤では
「いじめ」「死刑ごっこ」が描かれる。
これらも全て戯画風に展開するのだが、
ある立場からすると
実に残酷極まる
看過し難い描写だ。
とかく「仲よちバイアス」強烈な昨今
クレームは必至だろう。
冷静に読むと確かにヤバい(悪い意味で)。
が、
それを「ヒョイ」と乗り越えられるのも
この「言葉遊び」の効能と言えなくもないのだ。
「掴み所がない」との意見が出たが
しかし
それこそ別役の本領であり
彼のフリークを今尚魅了し続ける所以なのだろう。
一方
「存在」そのものも否定されるに近い罵詈嘲笑を受けたりして
もはや「夢は叶う」なんぞ歌えなくなっている老毒詩人にとり
この「ベケットの二番煎じ」を敬愛・志願していた青き平和は
縄文時代のごとく遠退いてしまっていることを
絶望的に見せつけられる結果となった。
「ロゴス(言葉遊び)」より「エロス」
を老衰が始まっている魂は
痛ましいまでに欲していることを
まざまざと知らされたのである。
だからなのだ。
「別役は骨だ!」などと
傲然たる吐露が口をついて出た。
冒頭の三文字は
そこから連動するように一同が
畏れ多くも付していった
キャッチコピーなのである。
とは言え
まだ始まったばかり、というのもあるのか
衒学的難解さゆえか
テンションは概ね低かった。
ノンストップで読み終えた疲労を考慮したとしても
爽快なカタルシスはイマイチの印象だ。
それはこの一セリフに象徴されているように思える。
嘘じゃないよ……。もちろん、事実でもない……。これは、決意なんだ
別役作品がまさにそうである。
全てに「掴み所がない」ーー。
それは
先述のごとく
「ロゴス」で進められるからだろう。
その一方で
小道具が意外と細かで、ト書きの指示も具体的。
劇団GIGAの演出家・山田恵理香女史も言っていた。
「演出の余地がない」と。
そうなのだ。
私は思った。
これは「戯曲」というより「散文」ではないのか。
「戯曲の体裁をした童話」なのではないのか。
だから、観念なのだ。
「死刑ごっこ」が平気で書ける。
賢治をトリビュートするほど別役はお気に入りらしいが
両者は実のところ
物凄く残忍なのではないのか。
もう一つ用意されていた戯曲の元ネタも
『注文の多い料理点』だが
あれだって、悍しい話ではないか。
満州生まれの別役だが
両者は「ルサンチマン」で結ばれているのではーー。
一見、「童話」「漫画風」でありながら
実は。。。
これ以上は遠慮しよう。
そう思うと
「顔で笑って心で憎む」陰険な小心者は
ワクワクしないでもない。
本年のセミナーが楽しみである!
【追記】
山田恵理香女史から小生の動画チャンネル
「ひとりぼっちの朗読会」に「登録したよ」と思いがけぬ言葉をうかがい、感涙!
GIGAの演出家と聞くと、その取り上げる題材や「利賀村演出コンクール受賞」の功績などから「辣腕」の印象を勝手に抱いていたのだが、
先日の「ミラボー橋」にウルルされる意外なお茶目さや、熱苦しい小生にも「そうね、動画が丁度いいかも」と冷静かつ暖かい助言をくれる優しさに、永遠の老少年は逆にウルルさせられたのだった。
GIGAは夢野久作もやっているそうだ(特に五味氏は大の久作マニア)。小生が『ドグラマグラ』に触発されて「独り語り」(『胎児の寝言』)を地元文芸誌に書いたのは随分、昔。もう一度、その異才と向き合ってもみるか。。。
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令和の宮澤賢治??? |
【引用文献】別役実Ⅱ『ジャバンニの父への旅/諸国を遍歴する二人の騎士の物語』(ハヤカワ演劇文庫)
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