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お忍びも金魚鉢なら摩天楼 |
8月4日の放送分だから
二週間前のもので恐縮ーー
それはNHKの「FM能楽堂」
人間国宝の垣原崇志氏を迎えての回
大鼓の名手である
大鼓は高い響きのほう
固く鋭く木霊する
これが一打ち響くと
冷厳な空気が堂内に満ちる
そこへ小鼓の奥深い温もりの響きと
能管の細い煙のごとき旋律がくねって
瞬く間に異次元へ我々を誘う
これ、ちょっと西洋のオペラやミュージカル
また、南方の妖艶な舞踊劇では味わえぬ
独特の畏怖さがある
それもそのはず
亡くなった魂の怨恨や愛憎を沈める
言わば「鎮魂歌」が能なのだから
喋りだって普通でないのも当然である
眠たくなって然り
小生
かつて国立能楽堂で
中学の修学旅行団に遭遇したが
私語があちこちで起こって
格安チケットの所以を痛感させられた
さて
上記の番組
三曲目に紹介された『定家』
これに私は妄想逞しくしてしまったのだった
『定家』はご存知のとおり
その身分ゆえ許されぬ恋情を
歌の師匠(藤原俊成)の息子(定家)に抱いた式子内親王と
定家との曰く付きの恋話
それも
没しながらも年下の定家の執心は強烈で
蔦葛となって内親王の墓に纏わり付く
その苦しみからの解放を旅の僧に懇願
ようやくその呪縛から解かれるーー
略述すると、なんだ、と思われるが
この後半の舞いの四分間に
小生は「よからぬ場面」を想像した
それほどの曲だった
蛇がのたうつような能管
まるで男女の問答を思わす大小(鼓)
そこに、さながら教会かと耳疑うような残響の
ゆったりと絞り出される謡
そして
優美な舞いを踏む派手な朱の装束ーー
私の脳内には
それら能楽堂で見られるシーンが
摩天楼に聳えるビルの高層階
ラウンジで演じられる特別公演と響き
それらが夜景が眺められるガラス壁の一面に
透かして反映しているのだ
そして
テーブルの一隅には
『定家』を地で行くような男女が座していて
男が舞の合間にそっと女の手を握る
女は反対の手で男の手を握り返す。。。
まるで『失楽園』のようだが
名人が打つ鼓の曲が
ラジオとは言え艶然と響き
妄想を呼び起こす
能は「死の芸術」であると同時に
「エロスの芸術」でもある
ああ
一度でいいから
死ぬ前に『定家』を味わってみたいものだ。。。
【フォト俳句】→
「足元も」
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