1944年、アパートの一室で餓死ーー
Wikipediaのプロフィール に改めて絶句した。
(
辻潤(Wikipedia)
その人の名は「辻潤」。
伊藤野枝の元夫であり、
英語教師にして翻訳家であったが
妻に去られ(大杉栄に元に走る)
教職を追われた後は不遇の半生だった
まさに不運な天才
その傑作を
3日の「大耳ライブ」で
こちらもガムテープを巻いて
その奇才ぶりを発揮し続ける詩人森耕氏が紹介していたのが
「享楽座」のぷろろぐーー
小生はそのテキストはもとより
森氏の肉声にも打ち震え
遅まきながら辻の略歴と作品を渉猟した。
そのぺダンティックなアイロニー
聖と俗
時代(とき)と場所を超えて
この小っぽけな死に損ねの胸を揺さぶる詩の力
さて、この怪作の末尾。
掛け声二度で締めるのだが
1922年発表のT.S.エリオット「荒地」
第1節「死者の埋葬」の最後も
祈祷のごとき連唱で終わる。
これを辻は意識していたのだろうか・・・
「享楽座」のぷろろぐ
辻潤
ダダはスピノザを夢見て
いつでも「鴨緑江節」を口吟んでいる
だから 白蛇姫に恋して
宿場女郎を抱くのである
浅草の塔が火の柱になって
その灰燼から生まれたのが
青臭い“Laラ Varieteヴリエテ d'Epicureデピキュウル”なのだ
万物流転の悲哀を背負って
タンバリンとカスタネットを鳴らす
紅と白粉の子等よ!
君達の靴下の穴を気にするな※(感嘆符二つ、1-8-75)
ひたすら「パンタライ」の呪文を唱えて
若き男達の唇と股とを祝福せよ
怪しくもいぶかしいボドビルが
そこから生まれ落ちるだろう
民衆芸術のワンタンを喰うな
月経に汚れたブルジョア娘の下着を羨むな
それはバビロニアの王者
サルダナパロスの唾棄するところだ
帝劇と有楽座を外濠に埋めて
新しい“Follyフォリイ Varieteヴリエテ”を建設しろ
かくて常に Pimpピンプ の如き
“Strikingストライキング”の憧憬者 黒瀬春吉は
一夜立花家歌子の尿を飲む夢みて
「ヴリエテ」の妄想を創造した
この時 痴呆の如き色情狂者は
賢くも「○○」のカツレツを吐き出して
阿片の紫衣をまとい 王者の姿に扮して
享楽座の舞台に登場するのである
畢竟 彼の「市場価値」は
正に見物の好奇心と角逐するであろう
ボオルとブリキの「平和博」が
腐れ弁天の池に吸い込まれ
山師の懐中に雨もりがして
尻に帆を揚げる滑稽を演じても
遂にその芸術的価値に於て
わが「享楽座」の茶番には及ばないのだ
虚無の大象に跨がり 毒々しい紅百合を嗅ぐ
サルダナパロスよ!
しばらく月光の下に汝の従順なピエロオと戯れろ
その時
汝の尺八は幼稚なトロイメライを奏でて
汝の胸の冷蔵庫に秘められたドス黒い心の臓に
真赤な旋律を
点火するであろう
絶望と倦怠との餌食――
酷薄な「生命」に虐なまれる傀儡は
僅かに刹那の火花から
トマトの肌触りを感じるのだ
ヒステリイの山犬よ 石油の空缶を早く乱打しろ!
そして幕をあげろ!!
ハッシュ!! ハッショ!!
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