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復旧後の嘉穂劇場 |
2003年7月19日ーーちょうど16年前のきょう(「きょう」という日は基本的に一日しかないので、「~年前のきょう」という表現にはいささか違和感があるが、便宜上、用いる)、九州北部は記録的豪雨に見舞われた。大都市・博多は地下鉄や地下街が浸水。都心は大混乱を呈した。
我が故郷の飯塚もそうだった。前夜からの激しい雨は止む気配がなく、まんじりともしない一夜だった。早朝、サイレンのような音を聞いた記憶があるが、ニュースを見て仰天した。中心街が黄土色の水に浸かっている。近郊を縦貫する一級河川・遠賀川が決壊したのだ。そして、川とは道路一本隔てたところに建つ、芝居小屋風の劇場「嘉穂劇場」も、枡席が冠水し、木枠が折れ、花道も破壊され、直径八メートルの回り舞台もぽっかりと水上に浮いてしまって劇場機能を完全に失ってしまった。筑豊のシンボルとも言える伝統の建造物が、一夜の暴雨によってその生命を絶たれてしまったのである。
その後は、ご承知のとおり、津川雅彦、明石家さんまといった劇場ゆかりの大物役者たちがチャリティー・オークションのために来訪。奇跡的復旧を果たしたのだが、小生も地元出身ということで、詩友とともに今は無き元保育所のイベント・スペースで朗読会を催し(同年10月19日)、ささやかながら寄付させて頂いた。本日は、その日に読んだ作品を紹介する。
(*因みに、当作品は、こちらも今は無きrkbラジオ番組「立川笑志の裸一貫」という番組でもお招き頂き朗読披露したものである)
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「海 ~嘉穂劇場に寄せて」
ただいま、私は
海の底にいます
あぁ、綺麗だぁ
魚の群れ、見えますか
一斉に向きを変えました
まるで巨大な包丁の刃が
キラッと翻ったみたいです
タコ! 赤いタコ!
いや! 赤い欄干です
子宮の、お母さんの子宮の
卵管じゃなく
橋の、太鼓橋の
太宰府天満宮にある
赤い太鼓橋の欄干です
あそこの神様は嘘つきです
嘘つきです
合格しなかった、合格しなかった
やっぱり神頼みはいけません
自分の人生は自分で
切り拓くべきです
あれ? 欄干と違います
橋の欄干と違います
あれは木枠です、木の枠です
桟敷席の、古い芝居小屋の
桟敷席を囲っている木枠です
私が五つのとき、はじめて
劇場という所に家族と行った
古い芝居小屋です
叔母さんの日本舞踊の発表会
えらく寒い、冬の日でした
一緒に行った婆ちゃんが
鼻をかんで懐にしまったちり紙を
寒がる私の背中にそっと入れてくれました
「こげんしたら、寒ぅなかろうが」ーー
ああ、空からの声です
海の底からの声です
婆ちゃん、死にました
九年前に死にました
ばってん、婆ちゃん生きてます
赤い帯に姿を変えて
舞いを舞う叔母さんや私たちとともに
今も生きつづけています!
ここは、生と死が
過去と未来が一緒くたになる
いのちのスープです
スペースです
宇宙です、地球です、子宮です、
地球です、宇宙です、子宮です、
地球です、宇宙です……
【詩】→
「カガミよカガミのツイッター」
【短編】→
「お告げ 〜ひと夏のフシギ
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