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【12月8日に寄せて その2】中原中也「サーカス」(昭和九年) ー茶色い戦争ありました。。。 [On December 8th—Pearl Harbor Day] Nakahara Chūya’s Circus (1934): “There Was a Brown War…”

  「ゆあーん、ゆよーん」  天才詩人の残した不朽のオノマトペである。しかし、その何とも童話チックな響きとは裏腹に、その詩「サーカス」は、「戦争」というものの本質−−冷酷さ、嘘くささ、滑稽さ等々−−が、小学生でも分かる言葉で綴られている。「サーカス」は、それに踊らされている大衆なのか、当局なのか。。。この詩を収めた詩集『山羊の歌』は昭和九年が発刊年。青空文庫によると、12月10日というから、ほぼ91年前の冬だ。今の世界はどうなのか。暗い気持ちと向き合いつつ動画を作った。 “Yuaaan, yuyooon.” This is the immortal onomatopoeia left to us by a genius poet. For all its fairy-tale charm, the poem Circus in which it appears speaks of the essence of war—its cold cruelty, its falseness, its absurdity—in words that even a child could understand. Is Circus about the masses being made to dance, or about the authorities who pull the strings…? The collection that contains this poem, Goat Songs, was published in 1934. According to Aozora Bunko, the date was December 10th—so it was the winter almost ninety-one years ago. And what about the world now? I made this video while facing that darkness within myself.

思い出(人間ピラミッド)



まだ運動会が
秋にしか行われてなかった時代
本番を数日後に控えた
午後の校庭で
僕ら小五男子はピラミッドの稽古をしていた

秋晴れの陽光は眩しく
地面は剥き出しの膝や掌に熱いほど
長身だった僕は一番下の
右から二番目
短距離走は得意だったが
こうした集団演技は苦手だった
地面や人に触れるのも嫌である
だから
四つん這いで
必ずしも親しいわけではない級友らを支えるのは
拷問以外なにものでもなかった
幼な心にも
「これは学校のため」と
優等生よろしく自分に言い聞かせていた

そんな気持ちだから
厳しい号令にも
機械的に従うだけだった
誰一人
「頑張ろう!」なんて意欲を示す者はいなかった
張り切っているのは教師だけ
まるで軍隊のようだった

笛が鳴り
膝と手をつく
続いて上に級友が乗る
彼の膝頭が僕の肩甲骨をぐりぐりと揉む
痛くてならない
そこへ容赦無く
三段目が乗ってくる
膝に小石が食い込んで
悲鳴を上げそうだ

苦しいのは僕だけじゃない
皆、我慢している
そう指導されてきたのだから
僕一人、我が儘は許されないのだ


顎をしゃくった僕の目の前に
四つん這いの僕の影が揺れていた
利き腕の右は肘がしゃんと伸びているが
左肘はくの字に震えている
もうダメだ、と思った瞬間だ
地面にお腹が着くや否や
雪崩が僕の背中を襲った
息が出来ない
伸(の)されてゆく
遠くでピピーと笛が鳴る
溜息と罵声が浴びせられる

不思議と僕は悔しくなかった
いや
全くなかったわけではない
ただ
不謹慎だが
崩してしまったことに
言い知れぬ
痛快さを覚えていた
それを表立って表せないから
僕は渋面を作って
級友や先生にペコペコ謝った
「ちっ。しょうがねぇなぁ」と
教師がやり直しを命じる
誰も僕の真意に
気づきはしなかったーー

そういう意味において
ピラミッドは僕に
集団バイアスのいなし方を
教えてくれた

児童というのは
先生たちが期待するほど
児童でもないのである。。。


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